家のバランス

家にはバランスが必要です。
例えば性能とコストのバランスは近年「コストパフォーマンス」という言葉が流行しているように、家だけでなく様々な分野で重要視されています。

性能だけとっても色々な場所でバランスをとっていかなくてはなりません。
例えばUa値。Ua値というのはあくまで家全体の平均値です(U値のアヴェレージでUa値)。
このU値がデコボコだったらどうでしょう?
極端な話、壁は高品質な断熱材を物凄く厚くして使っているのに、窓は1枚ガラスのアルミサッシ。
これだって平均してしまえばそこそこの断熱材+樹脂ペアガラスと同じくらいのUa値になってしまうかもしれません。
当然、前者の家は窓が大きな弱点となって窓から冷たい空気が入ってしまいますし、ほぼ確実に窓が結露します。
同じUa値でもそのバランスがきちんととれているかが肝心です。
今後、Ua値の優劣だけで競うようになってしまえば、このような話が出てこないとも限りません。(〇〇工法だからあったかい、トリプルガラスだからあったかい、という文句も似たようなバランスの悪さを感じますね)

また、冬場の日射取得についても難しい問題があります。
ガラスというのは総じて、日射取得量を増やせば、熱損失量も上がり、熱損失を下げれば、日射取得が減ってしまいます。
例えばトリプルガラスは室内側から外に出ていく熱損失が少ないですが、その分、外から取り込める太陽のエネルギー少ないのに対し、ペアガラスはより多くの太陽エネルギーを取得できますが、室内から出ていく熱も多くなります。

冬場はできるだけ太陽の光を取り込んで暖房負荷を減らししたいのですが、日射取得を上げればその分熱損失も増えるので、取り込めるエネルギーと出ていくエネルギーのバランスを見なくてはなりません。
最近は日射取得は大きく、熱損失は少ないという夢のようなガラスも出てきていますが、海外製のものが多く、高価になります。
このガラスを採用することでどの程度エネルギー負荷が減らせるか、ランニングコストがどう変化するか(もちろん環境負荷は金額に換算する話ではなく、ECOの視点からトータルコストが上がっても採用するという選択もあります)というバランスも見ていく必要があります。

さらには、日射取得と熱損失のバランスがエネルギー負荷の観点からベストマッチだったとしても、超高性能の住宅となると、日射取得が大きすぎて冬場の日中に室内が暑くなり過ぎる(!?)という逆転の現象が起きてきてしまう事があるので、エネルギー負荷が多少多くても、あえて日射取得の少ないガラスを使う場合もあるかも知れません。

こういった数値の更に先にあるバランスの問題については、立地や家の向き、窓の位置や数、または生活スタイルといった個別の問題が絡んでくるため、何が正解であるとは言い切れません。
お施主様とコミュニケーションを取りながら、うまくバランスを取ってスマートに図面に落とし込んでいく力こそが設計力なのだと思います。
パッケージングされた住宅ではなかなかここまで考えられないと思いますので、こういう部分こそ、地域の工務店・設計事務所が力を発揮しなくてはいけませんね。

ただしここで強調しておかなくてはならないのは、このバランスの問題は性能値に関してある程度をクリアした先にある課題だということです。
まずは21世紀の資産に足りうる住宅として、最低限の性能値はクリアしなくてはならないと思います。